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第39話 “流れを知る”ことがコツ

 よく、株価の見通しが百発百中なら大きな財産を作れると思う人が多い。
たしかに、ひとつ、ひとつの株について、上げ、下げをピタリと当てられれば、そうなるようにも思える。
しかし、それは錬金術に似て至難のワザである。この私はもちろんのこと、
古今東西を通じ、そういう人はまずいないだろう。
そして、株価の見通しがうまい人必ずしも、儲け大ならずである。ここが、相場のむずかしさであり、面白さでもある。
株価予測の名人はえてして、見通しが当たることに無常の喜びを感じ、例えば、十銘柄について七つとか、
八つとか的中したということだけで満足してしまう傾向があるのではないだろうか。

  しかし、財産を増やすとなると、ややおもむきがちがってくる。どれだけ儲かるかである。
その場合、数多く銘柄を当てるより、一つでもよいから資金を効率的に運用することだ。
見方によっては、あまり多くの銘柄を売り買いすると、自然に注意が行き届かなくなり危険も大きくなり勝ちだ。
十銘柄に投資して、九銘柄が成功、あるいは十回やって、九回うまくいったとしても、
たった一銘柄、たった一回の失敗により、全部の儲けを飛ばしてしまい、逆に足を出すなんていうことも少なくない。

  まして、五十、百などと数多く投資する場合になれば大変だ。分散すれば危険も少なくなるという見方も
あるようだが、そうはいかない。そのよい例が、日本の投資信託ではあるまいか。いろいろ事情もあろう。
しかし、三十ぐらいの銘柄にしぼって運用している外国の日本株専門投資信託が
比べものにならぬ成績をあげているのをみれば、何となく、わかるではないか。
いくらすぐれた専門家が数多く集まり、コンピューターを駆使したところで、やはり限界があるように思う。
九回の成功を一回の失敗が帳消しにしてしまう、これこそが相場実戦の真の姿であろう。
とどのつまり、相場で成功する初歩的な、そしてもっとも確実なコツは、相場の大きな流れを知ることにある。
それが、勝機をつかむことである。

  下げから上げに変わる。その時機に買って出れば、あるいは逆に上げから下げに変わった時、
すかさず売って出れば、どんな未熟な人であろうと、資金が少なかろうと、多少銘柄の選択をあやまったとしても、
儲けの大小は別にして、必ず成功するといってまちがいない。
最近の例では、昭和四十年がそうだった。利回り五分、二百五十円スレスレまで売りこまれたソニーを買っておけば、
今や五千円をこえ、その間に二割の無償を二回、二割五分の無償を一回もらっているので、実に三九倍にもなった。
ソニーでなくても、鉄鋼株だってもうかった。あの当時の単純平均が八十五円、今は二百円台を突破している。
昭和四十六年秋のポンド・ショックの時も、そして近くは、四十六年暮の円切り上げの時も、そうである。
流れが下向きから上向きに変わったのである。それをつかめば、文句なしだ。

  ところが、相場が上昇しつづけてくると、買いたくなるのが人情だが、買いは次第にむずかしくなる。
それは、誰が考えても、値上がりするのが当然な銘柄から先に値上がりしてしまうからである。
資産内容、収益力、成長性、そして利回りにも乗るようなものである。いきおい、利回りには乗らないが、
近く増資がある、あるいは利益が大幅に伸びるからとか、新製品、新技術の開発に成功したとか、
さらには大きな仕手が手を伸ばしているといったような理屈をつけて不確定な期待感に頼るようになる。
欠点はあるが、よい点もあるという考え方だ。
そこへ人気が加わってくる。株価は派手に動き出す。ついついそこへ乗る。
危険がどんどん増していることには気がつかない。
ここまでくると、いかにすばらしい相場の名手であろうと、はずれる可能性が高まるのは至極当たり前である。
ほんとうは次の機会をじっと待つべきなのである。

  しかし、人間は弱い。危ないと思いつつ、引きずられる。このへんで、戦線を縮小しようとしながら
出来なくなってしまう。この見切りが、相場に勝つか、負けるかの分かれ目である。
先日も、うちの調査の若い人が私に聞いた。
「世の中で、あの相場で儲けた、この銘柄で大儲けしたとの話はよく聞きます。
でも、財をなし、最後までうまくいった話はあまりありませんが、それはどうしてですか」と。
私は「人間の欲には際限がないからだよ」と答えておいた。
彼は、何かわかったようなわからないような顔をしていた。
このことは古いようだが”利食い千人力”の一言にも、示されている。
あとから考えてみれば、なぜあそこでとめておかなかったかと思うが、
その場になるとつい落ちこむ落とし穴だ。
そして、何べんくり返しても、また誘いこまれてしまう。人間の弱さという他はない。

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